私たちの目の前で、その光景は広がっていた。 「うおおっ?」 「あー、すいやせん副委員長。手元が狂いやした」 「……そうか。じゃ俺も、手元が狂ったぜェェェ!」 「待てトシ! なんなら総悟も入れてトリオにして……」 「ゴリラは出てくんじゃねえ!」 「ほしーのォォ!」 「はっはっは! 斬新な漫才じゃねーか!」 「言ってる場合ですか! もうなんでいつもこうなるんだよォォォ!」 私たちの担任・銀八先生が、急に何を言い出したのかは知らない。 確かなのは、部活(バドミントン)を終えて教室に戻って来た私と山崎はこの光景を眺めてるしかない、ということだけだ。 「大変そうだねぇ、片付け」 巻き込まれぬよう、この騒動は見ないことにしておいたほうが良さそうだ。 「先生はどういうつもりなんだろう?」 しびれを切らしたのか、尋ねてくる山崎。 「先生が何を考えてるかなんて、私じゃなくて先生に直接聞いてよー」 「先生に聞いて、ろくな答えが返って来たことないから聞いてるんだけど……」 「私にもわかりかねまする」 投げやりな私のかわりに、騒動から抜け出て来た新八くんが口を挟む。 「『万事屋ちゅ〜ぶ』とかいうゲームの予約特典としてつくドラマCDのための特別授業ってことで、ツッコミについて教えるって、最初は言ってたんですよ……」 「それが、なんであんな大騒動に?」 新八くんは、山崎の質問に何かを答えたようだけど、おそらくそれは内容についての説明ではないと思う。 もし説明だったとして、まぁ私に興味はない。 大事なのは、私の視線の先であの人が、楽しそうだってこと。 それでも、半分しか開いてない目は、死んだ魚みたいだけど。……煌めく目のあの人なんて、数回しか見たことないし、いいか。 あの人は、神楽ちゃんや総悟と一緒になって土方をいじり回し、笑い転げている。 「銀八先生、楽しそうだね」 山崎が呟く。 「そうだね」 私はうなずく。 「いや、僕は全く楽しくないんですが」 「新八くんには聞いてないよー」 「酷っ! さん酷っ!」 「が酷いのは今に始まったことじゃないよ、新八くん」 二人が何かムカつくやり取りしているけれど、耳を素通りする。 神楽ちゃんと総悟の、常人ならぬ格闘技の掛け合い(に巻き込まれる近藤くん)を眺めていると、土方に筋肉バスターを掛けていた先生がこっちを向いてウィンクした。 私まで笑顔になってくる。 「今、先生こっち向かっなかった?」 「ジミーのくせに、よくわかるね……。ただの気のせいじゃない?」 「ちょ! 気にしてることをあっけらかんと言いやがった!?」 「なんだぁー気にしてたんだぁー」 「棒読みかよ!」 山崎を軽くいなしておいて、私は視線を戻す。 うん、本当に今日も素敵だわ。 「何が素敵なのさ?」 さすがはジミー山崎、めげないねぇ。 それよりも、ひとりごとを声に出してたのか私。寂しいな! 「めっちゃ出てたよ……」 なら、この先は黙ってるとしましょう。 この幸せを分けるには、ジミーや新八くんにはもったいなさすぎるものね。 ―――もうじき、私たちの関係は、レロレロキャンディーと称した煙草をくわえたままの口から、飛び出すことだろうし。 でも、2人だけの秘密が知られるのは、少し惜しい気もする。 キスすると、煙草の匂いに混じっていちご飴の味がかすかにする、なんてことは誰も知らないし、知っている女の子がいるとも思わないだろう。 だから、今だけは優越感に浸っていてもいいでしょう? これは私たちだけの、とっておきの小さな秘密なんだから! 秘密主義者の微笑み (先生が、またウィンクして来たので、私は微笑み返してみました!) 『銀魂3年Z組銀八先生4』の巻末に収録の、「特典とオマケだったら特典の方が響きがいいよね」より妄想。 |