「にいちゃん、リコさんと日向先輩がお見舞いに来てくれたよ!」



辛気くさい病室の個室に、明るい声が響いた。
白い部屋と白いベッドと鼻につく、消毒液の独特な匂い。その中心で横たわるは、天才と名高い木吉鉄平、その人だ。
高校2年生にしてはガタイのいい身体。
ブレない体幹。
大きな手。
聡明な頭脳。
一時は『鉄心』と呼ばれ、誠凜高校バスケ部を担っていくべき存在だったはずの彼がここに入院するようになって、半年が経っていた。



「こんにちわ、ちゃん」
「よーっす。相変わらず木吉にべったりだな、
「んー、まぁ。あたしは、にいちゃんの役に立つことしかできないですからねー」



膝の故障は、かなり致命的だった。
バスケの試合中、敵チームにいた『悪童』こと花宮真によって意図的に壊されたそこは、医者たちから「もう元には戻らない」と宣告を受けている。
それでも彼は、いつかはあの戦場に戻れると信じて、健気にリハビリを続けているのだ。



「はい、これ。今回のメロンは伊月くんのチョイスよ」
「おお、旨そうだな。、切ってくれるか?」
「了解! あ、リコさんたちも食べて行って下さいよ?」



くじけそうになる彼を支えて奮い立たせているのは、バスケ部のチームメイトたちだけに留まらない。
彼を育ててくれた祖父母はもちろん、木吉―――入院生活のあらゆる日常面をサポートしてくれる、妹の存在も大きかった。



「前から思ってたんだけど、ちゃんって良い筋肉してるわよね」



お見舞い品のメロンを切りに給湯室へ向かった少女の後ろ姿を見つめながら言うリコ。どうやら、その制服の上からひそかに体力値を測定していたようだ。
しなやかで伸びのある身体は、見る人が見れば何か運動をやっていたのだと分かる。



「ああ。アイツ、小六までバレエやってたからな」
「バレー?」
「いや、バレエ」



首を傾げる日向に、ハイキューの方じゃなくて白鳥の湖の方だ、と返して、木吉は曖昧に微笑んだ。
お年玉をはたいて買ってやった薄桃色のトゥシューズを履いて、嬉しそうに飛んだり跳ねたりするの姿は、今も瞼の裏に焼き付いて離れない。



「なかなか筋が良いって言われててさ。発表会でも主役任されるくらいの腕前だったんだけどなぁ」



それなのに、舞台の中央でくるくる舞う美しき小さなプリマ・バレリーナは、ある日、あっさり辞めた。
引き留めるバレエ教室のコーチや友達に、はたった一言だけ言ったのだという。


―――だって、あたしにはやるべきことが他にあるから、と。



「やるべきこと?」
「……たぶん、俺のせいなんだ」



本人は違うと言い張るが、木吉には分かる。兄として、ずっとずっとすぐ側であの子を見つめてきた目はだまされない。
自分が「鉄心」だと知ったから、はバレエを辞めようと思ったのではないだろうか。




『にいちゃん! にいちゃんってバスケ界でもすごい存在だったんだなぁ!』



あの日、ランドセルをカタカタと鳴らしながら小学校から帰って来たは、きらきらとした眼差しで大きな背丈の兄を見上げていたっけ。


は、身内の贔屓目を抜きにしても十分可愛い妹だった。
頭も良く、運動神経も良かった。クラスメートからの人望も厚く、友達も多かったし、学級委員などのリーダー事を引き受ける機会も多かった。
さんは休み時間、いつも大勢の生徒に取り囲まれているんですよ! と担任教諭に誉められて喜んだ祖母が、夕飯をの好きなメニューだらけにするのが、毎年の家庭訪問の後の恒例行事だったくらいだ。



『おお、なんだ? どうした?』
『あのね、今日、クラスでにいちゃんの話になったんだよ!』



なんでも、クラスの子が持ってきたバスケ雑誌に「無冠の五将」の特集が組まれており、そこに写っていた兄が、「鉄心」と呼ばれていることを知ったらしい。



『クラスの子もにいちゃんのこと、ものすごい人だって言ってた!』


は、兄がバスケをやっていることは知っていたものの、自分や両親代わりの祖父母には特に何を訊いてくることもなかった。
だから、自分から言わなければ、無冠の五将と噂されていることも、鉄心だと呼ばれていることも知らなかったのだろう。
いつの間かついていた鉄心というあだ名はあまり好きでなかった。
でも、可愛い妹に眩しいほどの視線を向けられては、イヤな気持ちはしない。



『にいちゃんは、あたしの自慢だよ!』
『おお、そうか。そりゃあ嬉しいな』
『にいちゃんがバスケでもっと頑張れるように、あたしも頑張るよ! 家事なんかやんなくていいよ、全部あたしがやるもん。じいちゃんとばあちゃんにもそう言っておくし。そのかわり、にいちゃんはバスケもっと頑張ってね!』



花のような笑みで、彼女はそう言った。



『にいちゃんのその大きな手は、バスケの神様がくれた贈り物だよ。大切にしなくちゃ!』



そう言っては、それ以来家事などを何もさせてくれなくなった。一度、コップを割ってしまったときなどは、般若のような形相で「触るな!」と厳命されたほどだ。

がバレエ教室を辞めたのは、そんな会話をした次の日だった。



『別に、にいちゃんのためじゃないさ。知ってる? バレエ教室って、結構月謝高いんだよ。靴とか衣装代もあるし、発表会だってお金かかるし』



バスケだって遠征費だなんだとかかる、と言ってはみたものの「そんなん比じゃないんだよ」と返されれば、バレエについてほとんど知らない兄としてはぐうの音も出ない。



『あたしは、にいちゃんのためだったら、なんだってしたいんだ。にいちゃんのためだったら、なんだってできるんだよ』



何度も何度も、呪文のように繰り返されるその言葉は、甘美だった。
誰もが羨む、出来の良い、可愛い妹。
彼女がそんなことを言う度に、それは身体を巡る猛毒となって、木吉の正常な判断を奪っていく。



「プリマか〜。だから今でも均等な筋肉ついてるのねぇ」
「木吉兄妹は揃いも揃って運動神経良いんだな。嫌味か?」
「ハハハ、日向は面白いことを言うなぁ」



そのタイミングで、「メロン、切れましたよ〜」と言いながら、皿に乗せられたメロンとスプーンを持ったが戻ってきた。



「……よ、4等分にしたのか」
「随分と大きいわね……」
「あっ、もっと小分けにして切るべきでした!? ごめんなさい!」
「ま、食えないことはないし、ここは豪勢にいこうぜ」



だから言えなかったのだ。
―――本当は、血が繋がってない、だなんて。




+++




自分たちは、本当の兄妹じゃない。
実のところ、木吉がその真実を知ったのは、恥ずかしながらつい最近―――入院して少し経ったくらいの時期だった。


うららかな陽気のその日は、確かの通う照栄中のテスト期間中だったはずだ。流石のもテスト勉強のためにお見舞いには来れなかったようで、代わりに、珍しく祖父母が来てくれていた。
長い入院生活で困らないように、と様々なものが用意された病室。が何度も何度も足を運んでせっせと揃えてくれたそれらに囲まれて、祖父母がなにかを話している。
鎮痛薬のせいで朦朧とする意識の中、必死で耳を澄ました。もしバスケを続けることに反対されたらどうしようかと思いながら。



「あのとき、を無理にでも全寮制の中学に入れた方が良かったんだろうか……」
「またそんなことを言って……」



弱みを見せたくない、という理由から、お見舞い予定がない日にしか薬は使っていなかった。だから、その日に祖父母が来たのは偶然だったはずだ。



―――の話?



バスケ関係の話でないことに安堵はしたものの、話の雲行きは少し怪しかった。
少しでも気を抜けば寝落ちてしまいそうな意識。必死の思いでまどろみから足掻く。



「だってそうだろう。これ以上、が鉄平のために犠牲になる必要はない」
「でも、あの子が寮制の学校に行くの嫌がったんですよ。お見舞いだって、自分からやりたいって……」
「それは本当のことを知らないからだ。実の兄妹でないことを知ったら、他人のためにここまで尽くそうなんて思わないだろう」



実の兄妹でない。
他人。


靄がかかったように思考を邪魔していた薬が切れ、ぶり返してきた激しい痛みと一緒に祖父母の台詞の意味を理解できたときも、木吉は不思議と驚きはしなかったし、すんなり受け止められた。
……ずっと前から、なんとなくそんな予感はしていた。
背の高い自分に比べ、は平均よりも随分と小柄だったし、そもそも二人の容姿はびっくりするほど似ていなかった。
一緒に歩いていても、カップルならともかく、兄妹だと思われることはほぼなかった。
現に、のクラスメートたちだって、言われるまで彼女が『鉄心の妹』だとは気づかなかったじゃないか。



「いつか言わないとなぁ」



血の繋がりのこと、膝のこと。木吉は、に何も伝えていなかった。
いつだってそうだった。木吉は、妹にあまり自分のことを言わないようにしていた。それは、余計な心配をさせたくないと思う親心のようなものなのだろうと、自分では思っている。


実際は、はいつだってそんな兄のことをこっそり知って、支え、応援してくれるのだけれども。


『鉄心』と呼ばれていることを知ったとき、帝光中にぼろくそに負けてバスケを辞めたくなったとき。図書館から借りて来た栄養バランス特集の組まれた料理本を見ながら美味しい夕食を作ってくれたのも、「バスケなんか辞めてやる」と意気込んで捨てたはずのシューズをゴミ捨て場から回収してくれたのも、だった。
入院中の今だってそうだ。リハビリにめげそうになる度に、「あたしがにいちゃんのためにできることはない?」と傍でずっと励ましてくれたっけ。


(退院したら、に何かお礼をしないとな……)


そうは思っているものの、が何を欲しがっているのか、何を望んでいるのか、皆目見当もつかないのだが。バスケに夢中だったから、といえば仕方ないかもしれないが、バスケを言い訳に、妹のことを蔑ろにしすぎていた節があったのも否めない。
これを良い機会に、あの子と向き合うことをした方がいいかもな、とひとりごちる。


妹は兄のことをよく知っているのに、兄は妹のことをあまり知らない、だなんてとんだお笑い草だ。一緒に出かけて、欲しいものでも買ってやりながら、いつもはできないようないろいろな話をするのも楽しいかもしれない。
例えば、恋バナとか。あの子も年頃だし、浮いた話のひとつふたつはあるだろうし、そうだ、デートに着て行くような服でも買ってやろう。
そして気付いた。何か買ってやるのはトゥシューズ以来だ、と。


……がまだあの靴を大事に保管していることを、木吉は知っていた。


数年前の大掃除のときに、下駄箱の中から見つけたのだ。
小学校低学年の頃の靴なんかもう履けるはずがないのに、奉納物のように綺麗な木箱に納められていたそれ。自分が無惨にも奪ってしまった愛妹の才能の象徴であるその薄桃色の靴は、発見して以来、ときどき夢に出てきては木吉を苦しめている。
昨日だって、大舞台の中心で、あの薄桃色のトゥシューズを履いて綺麗なドレスを着たがくるくると回り続ける、そんな夢を見たばかりだった。



「……ちゃん」



バスケに夢中な兄のせいで、自分の人生や才能を犠牲にしてきたというのに、妹はまだ自分を慕ってくれている。それどころか、昔あげたプレゼントまでまだ大切にしてくれている。



「……いちゃん」



そんな心優しい彼女に、自分がしてやれることは何だろう。



「……にいちゃんってば。起きてる?」
!?」



思考の海を遮るように呼びかけられた木吉が声の発生源を見れば、そこには細く開けられた扉から顔を覗かせるがいるではないか。
しかし、今は消灯時間のハズだ。見舞い客は、とっくに帰らなければならない時間を過ぎている。
驚きのあまり、上体を起こす。そのはずみにベッドががたんと音を立てた。
しーっ。整った鼻筋と口唇に人差し指を当てたが、ゆっくりと病室に侵入してくる。



「……な、何で、ここにいるんだ?」
「今日、あのまま帰らないで、隠れてたのさ。この間、警備の人も看護師さんも見回りに来ない上、セコムのボタンも鳴らない絶好のスポット見つけたんだよ」



暗い病室に、ぺたんぺたんという足音が響いていた。どうやら、裸足らしい。
ぎしり、という音を立てて、ベッドの上に重さが移動する。



「ねぇ、にいちゃん」



暗闇の中で感じる自分の身体の上の温もりが何なのか、それが分からないほど混乱しているわけではない。
細い冷たい指が、木吉の顎を這うように動かされた。家事をしているせいか適度にささくれて荒れてはいたが、それでも滑らかなその指先が、やがては下唇をなぞっていく。
その妖しい動きに、ぞわりと背中が粟立つのを抑えきれない。



「な、何をしているんだ」
「やだなぁ、分かるでしょ? にいちゃんを励まして、元気にしてあげようと思って」



顔を包むようにして撫でられた小さな手が離れたと思いきや、口唇に柔らかい感触が降ってきて、口の端をぬるりと舐められた。
その隙を狙ったように、こじ開けるようにして割り入れられた舌が絡められる。なんとかもがこうとしたが、襟元を掴まれていて逃げ場がなかった。
息が出来なくなるくらいの長い時間をかけて行われたキスは、が息苦しくなったことでやっと終りを告げた。
呼吸を整えるために深く息を吐く度に、自分の上で僅かに揺れる彼女へ「バカなことをするな」と告げる自分の声は、驚くほど掠れていた。



、俺たちは、兄妹なんだ。だからこういうことは、」
「……にいちゃん、あたし知ってるんだ。あたしたちは、血が繋がってないんだろ」



戸籍謄本、見たことがあるんだ。
そう言いながら、が首筋に顔を埋めるようにして、子猫のようにすがりついてきた。
すりすりとわざとらしく身体を擦りつけてくるその様は、まるで昔に観た映画の中の娼婦のようだ、と思うくらいには熱くなる下半身に引き換え、頭は冷静だった。
いつ、どこで、どうして、そう訊こうとして、野暮なことだと悟る。
自分が薄々気づいていたように、妹だって本能的に気づいていたのだ。



「だから、大丈夫」



何が大丈夫なものか。何も大丈夫じゃない。
だけれど、その言葉は出てこない。ぱくぱくと、餌をねだる金魚のように口唇が開閉するだけで、言葉にならない。



「親戚か、従兄妹か……。一緒に住んでるってことは赤の他人じゃないとは思うけど、でも兄妹じゃないんだ」



だから大丈夫だよ、と目の前の『妹』は言う。



「あたしは、にいちゃんのためだったら、なんだってしたいんだ。にいちゃんのためだったら、なんだってできるんだよ」



いつものように、呪文のように呟かれる。
ねぇ、にいちゃん。あたしは、にいちゃんのためだったら、なんだってしたいんだ。なんだってできるんだ。



「やめっ」



魔法にかかったように、動けなくなるそのことば。
性器を膝で押しあげられ責め立てられれば、小さく唸るように喘ぐしか出来ない。
気が付けばパジャマを下ろされ。下着から出されてあらわになったその先端に息を吹きかけられる。
びくん、と面白いように反応を返す木吉を見て、楽しそうな笑い声を上げたの、温かく小さな手に包まれた。



「だめだ、、」



そのまま上下に擦られ、何とも言えない快感が走る。反応したのを手の中で感じ取ったらしいが気分を良くしたのか「ふふっ」と笑い、あろうことか先の方を舐め出した。



「何がダメなんだよ、にいちゃん」



アイスキャンディか何かのように弄ばれて。気を付けていないと意識が吹っ飛びそうになるほどの快感に包まれて、思わず声が出そうになり、口唇をかみしめる。



……何かひとことでも喋ったら、あられもない声が出てしまいそうだった。
……声を出してしまったら、快感を認めてしまったことになりそうだった。
……それを認めてしまったら、兄妹には戻れなくなってしまいそうだった。



怖かった。それは「もう2度とバスケは出来ないでしょう」と医者に宣告されたとき以上の恐怖だった。


木吉の中では、はただの『妹』だった。いや違う。『妹』でなければならなかった。
血の繋がりがない、という真実にうっすらと気づきつつも、そのことに蓋をして、なるべく考えないようにして、彼女を『妹』と位置づけた。
そうして、大切な何かを、守っていた。
そうして、大切な何かを、守っていたかった。
祖父母が、を遠く離れた学校に入れさせようとした理由も、今なら分かる。2人が、兄妹のままでいられなくなるのを危惧したのに違いなかった。



「ん……、にいちゃんイきそう? だったら、こっち、」



兄妹でいられなくなったら、俺たちはどうなってしまうのだろう。
脳内で必死に考えて現状から意識を逸らす木吉の努力も、徒労に終わる。またがったままのが根元を強く握ってきたからだ。呆然としていると、蜜を零す入口に宛がわれ、そのままゆっくりと腰を沈めてゆく。
熱い、と思った。このまま溶けてしまいそうだと。



「全部、入っちゃった。にいちゃんのおっきくて気持ちいい……」



ゆっくりと入り込むそれを締めつけるそれが、余計にの熱を感じさせ、木吉は嬌声を上げぬよう歯を食いしばって堪えることしかできない。
淫らに蠢くそこは、離さないとばかりに性器に絡みついて脈動していた。



「っ、にいちゃん、気持ち、いい? ね、どう……?」
「やめろっ、」
「やめないよ」



どこでこんなことを覚えてきたんだ。
己の上で快感を味わっているこの女は、果たして本当に『妹』なのだろうか。
―――いや、血の繋がりはないのだから、妹ではないのだけれど。
そんなことを堂々巡りのように考えながら、木吉は苦悶とも快感とも付かない表情で唸ることしかできない。



「ねぇ、にいちゃんも気持ち良い? 気持ち良いなら、声出して、」



まるで獣みたいだ、と自分の唸り声を聞きながら思った。
喰われているのは、こっちの方なのに。
こちらのことなんてお構いなしに、ゆるゆると下半身を上下させながら、じっくり味わうように動く。上に乗った少女が腰を揺らす度に、いやらしい音が一層大きくなる。
ギシギシ、と丈夫なはずのパイプベッドが音を立てる。
何も付けていない皮膚と皮膚とが擦れ合う。
……子宮の奥に、当たる。



「っ、だめだ!」



それはダメだ。それだけはダメだ。
ぐいっと肩を押し退けようとして、それは逆効果だった。
腰を動かしたせいで結合部がより深くなっていく。



「あぁあああっ」



びゅるびゅると、搾り取られたのは、どれくらいの時間だったのだろう。
身体の奥底まで支配されたと、身体の奥底まで支配した木吉、お互いが達するのはほぼ同時だった。
精液を子宮の奥で浴びたためか、犬のような荒い息を吐きながら小刻みに震えるその微細な動きにすら、感じてしまう。
出しつくすまで腰を足で絡め取られて、身動きが取れない。解放されたのは、が全てを飲み込んでからやっとだった。



「良かった、ちゃんと気持ち良くなってくれたんだ」



自分の上で、ふふ、と目を細めて舌舐めずりし、満足げに笑うこの少女は誰だ。



「にいちゃん、また溜まったら言っておくれよ」



あたしは、にいちゃんのためだったら、なんだってしたいんだ。
あたしは、にいちゃんのためだったら、なんだってできるんだ。
『兄』の体にまたがり、自分の内部に深く差し込んだまま囁かれる。


呪文のことばは、一体いつから効力を発揮していたのだろう。ああ、それはもしかして、彼女が『妹』であることに疑いを持ち始めてからではなかったか。
分からない。分かりたくない。
バスケの試合の後にさえ感じたことのないけだるさの中、木吉はただただ呻く。



「もし赤ちゃんが出来たら産んであげるね、にいちゃん」



ただひとつ分かったのは、自分の膝と同様、元のような状態には戻れないことだけだった。





血は水よりも濃い

いもうとだとおもっているのはあなただけよ、おにいちゃん

「やだなぁにいちゃん、あたしのナカでなんか大きくなったみたいなんだけど……興奮してくれたんだ?」