わたしのこいをひげきのじゅりえっとにしないで
こ んなに
こ いこがれてるの
か なわないって
ら くなことじゃないって
つ みだってしってるけど
れ んあいしたいの
だ って
し あわせを
て にいれたいから
そんな気分よ!
「パパ、ママ、おやすみなさい」
夜10時。
ちょっと早いけど、リビングにいた両親に告げて、自分の部屋に戻ることにする。両親はテレビ画面の中のバラエティ番組に夢中で、「ん、おやすみ」と短く返しただけだった。
芸人さんが、綺麗なモデルさんとどっきりデートを楽しんでいるらしい。悪趣味な番組だ。
せいぜいいい夢を見て下さいね!
ナレーションが入り、ちょうど芸人さんの告白タイムになった。
―――結果なんて決まっている。もちろん、ノーだろう。
私は2階の自分の部屋に戻った。
「あれ、もうテレビ終わった?」
「……何でいるの」
自分の1人部屋のはずなのに、部屋には先客がいた。
「気分だよ気分。いーじゃねぇか別に。なんか隠してるもんでもあるのかよ?」
「ないけど……」
んじゃいいだろ? とあっけらかんという目の前の男。良くはない。ここは私の部屋なのだから。
部屋に鍵がかかっていることを確認した銀髪の男が、私に抱きついてくる。その身体からは、何故かいつもキャラメルのような甘い香りが漂っているような気がして、くらくらしてしまう。
そのまま押し倒されるようにベッドに縺れ込んだ。
短パンから伸びた互いの脚が絡まり合い、その熱さに溶けてしまいたくなり、
「重いわ、兄さん」
私は、何とか言葉を発した。
「おまえ……少し太った?」
私の上にいる兄に、お腹の肉をつままれた。
私の下には柔らかいベッド。足元にはレースのたくさんついた黒いブラジャー(私の趣味じゃない、兄の趣味だ)。
「ママの作るお菓子が美味しいのがいけないのよ」
ちょうどショーツのウエスト部分の贅肉をむにむに摘んでくる兄も私も、パンツ1枚というあられもない姿だ。男女が同じ部屋でこんな格好でいていいはずがないのは承知している。ましてや、私と兄は血が繋がっていないのだから。
さっき言った『ママ』とは兄の産みの母であり、そして私の2人目の母だ。
1年前、パパが再婚相手として連れて来たのが、ママだった。
ママはすごく優しい。お菓子作りがすごく上手で、可愛くて。シンデレラの継母みたいな人だったらどうしよう、と思っていた自分を恥じてしまったくらいに優しい。
そして、ママには連れ子がいた。それが、兄さん。
甘いお菓子が何よりも好きな兄。普段はだらしないけど、いざというときは格好良い兄。
私は初めて出来た兄が嬉しくて嬉しくて、すごく喜んだ。兄も、そんな私を可愛がってくれ、甘やかしてくれた。
だけど。再婚以来、パパが「制服のスカートが短い」だの「マスカラなんかで睫毛伸ばしてどうするんだ」だの言うようになった。
―――私は、知っている。パパは、兄さんが嫌いなんだ。兄が私に手を出すんじゃないかと心配なんだ。
でも、それは逆効果だった。パパに邪魔されれば邪魔されるほど、縛られれば縛られるほど、首輪で繋がれれば繋がれるほど、私は兄に懐いていった。
「……んっ」
突然降って来た噛みつくようなキスに、私はびっくりする。優しくして欲しいのに、と心の片隅で思ったが、そんな痛みさえ愛おしい気がして、舌を絡めた。
結局、パパの予想は当たってしまうことになった……皮肉にも。
何でも知りたい背伸びしたい年頃の私と兄が、ある日突然、身体の関係を持ってしまうまで時間はかからなかったからだ。
別に投げやりな気持ちからじゃない。初めてだった私は、兄ならば全てをあげてもいい、全てを見せてあげてもいい、そう思ったまで。
「もしママたちにバレたらどうするの?」
「そんときは、必要なものだけ持って家を出るしかねぇだろ」
「……」
「そんな顔すんなよ、」
でかい家は無理だから小さいアパートとかになっちまうけど、絶対に幸せにするから、と言う兄。
違うのよ。
私はわがままだから、兄さんだけが欲しいわけじゃないの。
学校の友達も捨てられないし、家族も捨てられない。
お気に入りの大きなテディベアも、お年玉を貯めて買ったブランド物のネックレスも、初めてママにプレゼントされたぴかぴかのハイヒールも捨てられないんだ。
そんな私の薄暗い気持ちには気づかず、兄は「うんと遠くに連れて行ってやるよ。叱られるくらいにな」と笑った。
失いたくないものであふれかえっている醜い心を、覗いてほしい私と、覗かれたくない私とが対立し合う。
「それに、少なくとも今日はバレないはずだしな」
「何で?」
「親父たちも下でお楽しみ中みたいだぜ?」
ふたりのこどもがほしいっていってたし?
にやり、と意味深に笑う兄。
「……まあ、欲張りね」
ならば私も。
そうよね、素直でいいのね。
「ねぇ兄さん」
「ん? なんだ?」
ああ、このまま時間が止まってしまえば良いのに!
ロミオとシンデレラ
「わたしも、にいさんとのこどもがほしいわ」
だってもっと愛されたいの。今だけ許して。
いつもは死んだ魚みたいな目をしかと見開いて、ぱちぱち瞬きを繰り返す兄。
そんな兄に、畳み掛けるように言う、嘘つきでいじわるな私。
「ねぇ、私と生きてくれる?」
兄の熱いなにかが、自分の下腹部に押し当てられるのを感じながら。私はゆっくり目を閉じた。
(こうして、シンデレラは助けに来たロミオに食べられてしまったのでした。)
「こいのうた」様に提出作品
BGM:「ロミオとシンデレラ オリジナル曲 vo.初音ミク」-doriko
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