「、気持ち良い?」 背後から腰を打ち付ける。更衣室のロッカーに付いて身体を支えていたはずの両手は、いつの間にかきつく握りしめられていた。 「やっ、あっ」だらしなく開いたままの口の端から涎が垂れて、江ちゃんが綺麗にしてくれた床に染みを作る。 「あーあ、汚れちゃった」 あとで掃除しないとね。 わざとらしく優しい口調で言いながら、その小さい口に人指し指と中指を突っ込む。そのまま乱暴にぐにぐにと口内を掻きまわせば、ぐちゃぐちゃとなんとも厭らしい水音がした。 指に纏わりつくざらついた熱い舌は、果たして無意識か、意図的か。 顔が見えない彼女からは、何も読み取ることができない。幼い頃からずっと、それこそハルと同じくらい一緒にいる幼馴染みのはずなのに、俺には何も分からない。 「ま、まこちゃ」 「ん? どうしたの」 乱れた呼吸の合間に呼ばれた気がして、小柄な体躯のに覆いかぶさるようにして耳元で囁く。 ちょっと低めの声音で言ってやれば、びっくりするほど締め付けが良くなった。ぎゅうぎゅうと締まるその感覚は、どこか水圧に似ている気がする。ああ、気持ち良い。 「ハルちゃ、に……見つ、かっ」 「大丈夫だよ。ハルは泳ぐのに夢中で、他のことは眼中にないから」 細い腰を鷲掴みにして、攻め立てるように律動を再開した。波のように押し寄せては返す快楽に、が嬌声を上げる。 こうやって、二人で身体を重ねるのは今に始まったことじゃない(随分と前からだ)し、妙に敏いハルのことだから、もしかしたらとっくに気付いているかもしれないけれど、そんなことは告げない。 初めて俺たちがセックスしたのは、まだ中学の制服を着たばかりの頃だ。 じゃれてるふりして押し倒して、衣服も下着も脱がせず、苛立ちに任せて腰を強く打ちつけるだけだったあの当時、俺はまだ成長途中だった。背も全然低かったし、肩幅もそんなに広くなかったし、胸板も厚くなかった。そしてもちろん、テクニックの面でもかなり稚拙だった。 ―――まぁ、今は場数を踏んだおかげで、大分巧くなったけれど。 蓮も蘭も両親もいない隙を見計らって連れ込んだ俺の部屋で、啼き疲れて眠ってしまった初めてのときと比べれば、俺だけじゃなくて、だっていろいろ成長している。 身体つきは年々妖艶になっていくし、胸だって3サイズ上がった(俺の努力の賜物だと思う)。マグロを卸すように背骨の辺りをなぞってやれば、可愛い声を出して果てるように調教したのも俺だ。 それでも、俺を締め付けるの胎内のきつさは変わらない。それはまるで、俺を責め立てるようであり、拒絶するようでもあり。 今でも目に浮かぶ。俺のベッドの上で横たわる彼女の、スカートから覗く太ももを伝っていた白濁液は、血を含んだピンク色をしていたっけ。 それを見て、俺は一人歓喜したのだ。 誰にも奪われていなかったものを、自らの手で壊したのだ、という事実は、俺をたまらなく興奮させた。 何でもそつなくこなすハルでも、泳ぐのが一番早い凛でも、いつでも明るくて人気者な渚でもなく、怖がりでビビりで小心者の俺がを手に入れた。 意地でも手放さない。 そう誓って早5年、俺はこうして、月に3回くらいのペースでを抱いている。 「見つかる心配してるの、江ちゃんでも、渚でも、怜でもなくて、ハルなんだね?」 「―――だ、って」 知っている。何度抱いても、彼女の心は俺に向かないなんてこと、俺はよく知っている。 は昔からハルが好きだ。俺に汚されてしまった今でも好きなのだ。 だから、俺はバックからしかを抱かない。 好きな女の子が、どんな顔をして好きでもない男に抱かれるのかを見れるほど、俺は強くないから。 「大丈夫だよ? どうせ、ハルは水しか興味ないんだし」 びくん。 腕の中で、が震えるのを感じる。 活きの良い魚みたいだなぁと面白くなった。小さい頃から、のイメージはサケだ。 何処に行っても、最終的には同じ場所に帰って来る小さな魚。誰といても、最後には俺の元にやってくるしかない。 ……シャチの超音波で麻痺して動けなくなって、結局食べられてしまう、可哀想で可愛い少女。 「ああそうだ、今度水の中で3Pしてみようか?」 思いついてふと言ってみた言葉は、砂が混じったようにざらりと舌に残った。 それなら、ハルも興味持ってくれるかもよ、なんて冗談っぽく言ってはみたものの、内心は心穏やかでない。 ハルちゃんがいるなら水中での3Pもいいかもね、と言われたらどうしようかと思っていたが、はまるで溺れているみたいに喘ぐのに夢中で、俺の声なんか聞こえていないようだった。 捕食される黒と白 シャチは、非常に獰猛で貪欲な捕食者だけど、でも食べる必要のない生物を襲うことは滅多にないことを、彼女は知らない。 |