武者修行を終え、山を降りている3人がいた。
柳生九兵衛を主とする、東城歩とだ。
このまま山を降り、九兵衛が組んだ予定の通り、江戸に帰って志村妙に会いに行くはずだったのだが……。



「真っ暗だな」
「……ですね」
「若、ここは何処かに泊まった方が……」







時間の都合上、たちは山の麓の街で一泊することになった。
ただ、泊る宿を前もって予約しておかなかったのが運のツキ。
街中の宿屋を歩き回くこととなり、ようやく部屋が確保できたのは夜遅くのことだった。



「なんとか2部屋取れた。1つは僕と東城が使う。もう1部屋はが使ってくれ。たまには1人で手足を伸ばして寝た方が良い」



そう言って、九兵衛は部屋の鍵をに手渡した。




(……1人で寝るのは久しぶりだ……)




1人で部屋を使うことについて、当初、は抵抗していた。
修行中は、九兵衛と常に一緒に過ごしていた。九兵衛が本当は女の子であることを知っている数少ない家臣であり、そしてまた自身も女であるは、その剣の腕も見込まれて、九兵衛とともに寝起きしていたのだ。
だから、よく考えてみれば、修行中に1人で寝たのは、九兵衛が眠らなかったほんの数日間だけ。
そう考えたは、九兵衛の勧めをありがたく受けることにする。
これで、九兵衛に気兼ねすることもなく休めると思ったなのだが、どういうわけか眠れない。
身体の調子がおかしくなっているのかも知れなかった。
無理に寝ようと焦ると、余計に眠れなくなってしまう恐れもある。




(目を閉じているだけでも身体は休まるか……)




そう思い、は目を閉じて、後は自然に睡魔がやってくるのを待つことにした。






どのくらい時間が経ったのだろうか。は廊下を歩く足音に気がつき、目を開けた。
の耳に聞こえたのは東城の足音だった。
何か不穏な事態でも起きたのか、と思い、は身構える。
しかし、東城の足音はの部屋を通り過ぎずに、その前で止まった。
は意を決して部屋の扉を開ける。
するとやはり、扉の前に立っていたのは東城だった。




「女性を訪ねる時間としては不適切ですよ」




小声で問いかけてみる。




「それを承知で来たのです。あなたなら、起きていれば開けてくれるでしょうしね」




は息を呑んだ。
目的は直接言わないにしても、東城が何を望んでいるかくらいはわかる。




「……若は?」
「ぐっすりと眠っておられます」




まぁ、実際に九兵衛が眠っていなくても、この男は本当のことを言わないだろう。




さんが嫌ならこのまま帰りますよ。あなたの意志を踏みにじってまで欲求を満たしたくはありませんから」




ずるい、と思う。そんな優しいことを言われたら、断りにくいではないか。





「東城さんは、私なんかでいいのですか?」
「はっ、愚かなことを。嫌ならここには来ませんよ」




は東城の手を握り、部屋の中へと招き入れた。
何故だろう。心の奥がちりちりと痛む。




「今だけは若のことを忘れて下され。どうか、私のことだけを考えて……」




何かを悩むようなに、東城はそう微笑んだ。
そこまで言われては。
は腹を決め、心の痛みを封じ込めた。
浴衣の帯を自ら解くと、その帯を東城に手渡す




「これで、私の手を縛ってくれませんか?」
「、は?」




東城は、目を見開いてを見る。




「べ、別に、そういう趣味があるとかじゃないですからね! ……ただ、痛い思いをさせてしまうので」
「はぁ、痛い思い?」




東城には、の言っている意味が理解できなかったらしい。




「情事中、背中にひどい怪我させちゃうんです、私。力を制御できなくて……」
「少々の怪我ぐらい、若の目に比べれば、なんてことはありませんよ」




東城は、の浴衣の襟元に手をかけた。
すでに帯が解かれているそれを脱がすのは容易だった。
隣に九兵衛が寝ていることを考えると、声を潜めなくてはならなかったが、声を出すことが出来ない分、二人は激しく求め合った。
二人同時に果てた後、しばらく起き上がることもままならないくらいに。
やがて、息を整えた後、は尋ねる。



「背中、痛くないですか?」



東城は痛みを訴えていなかったので、傷をつけずに終らせることが出来たと思っただったが、起き上がって見た東城の背中には、いくつもの爪痕と、点々と滲む血が残っていた。




「ごめんなさい。やっぱり……」




は、背中に滲んだ血を舌で舐め取った。




「おやおや。粋なことをしなさる。もう1度したくなってしまうではないですか」




相変わらず感情の読めない顔で言い放つ目の前の男。




「一体、どれほどの数の男性がこの痛みに耐えたんです? その中で、私みたいに痛みに喚かなかった男は何人いました?」
「……!」




自分は、九兵衛につかえるのにふさわしい人間ではないと言われるのではないか……。は謝ることさえできなかった。




「責めるつもりも、なじるつもりもありませんよ。いつまでも子供じゃないですからね、いろいろあるでしょう。私だって、そこそこ付き合った女性の数は……」




言いつつも、目が泳いでいる東城。




「いや、東城さんって遊び人ですけど、意外に若に一途だから、深く付き合った女性の数は意外に少ないんじゃ……」
「う、うるさいですね」











東城はの腕を引くと、再びを押し倒した。




(以前、遊佐さんハッピーバースデー!記念に書いたもの)