「ああ、お許しくださいマリア様……」 無人の礼拝堂の中、1人の少女が聖母マリア像の前で頭を垂れていた。 「夜な夜な妙な夢に魘されているのです」 その胸の間で揺れるは銀色の十字架。 祈りを捧げる美しい横顔。 天の妃女学院で、国語教師兼神父として働く鼎藤一郎は、礼拝堂の扉を開けるのを躊躇った。 +++ 教師としての仕事が終わると、礼拝堂に行って1日の出来事を天国の母親に伝えるのが、藤一郎の日課である。 その日も、授業が終わった後、女子生徒たちに囲まれたり、宮前かなこが泡を吹いて倒れているのを救出したりし、いつものように礼拝堂に向かった彼は、そこにすでに客人がいることに気付いた。 別に隠れる必要はなかったのだが、ドアについたガラス窓の向こうで祈っている姿があまりにも真剣で、邪魔をしたくないと思ったのだ。 ―――しかし、その考えが過ちだと気付くのに、さほど時間はかからなかった。 「夢の中の私は、背の高い殿方に、有無を言わせぬほどの力で押し倒されて、上に乗られてしまうのです。 いえ、相手の方の顔は分かりません。見えないのです。靄がかかったように薄ぼんやりとしていて、どなたなのか判別することができません。 でも、その誰かは、私が「いや!」と悲鳴をあげても、やめてはくれないのです。 私の声は誰にも届かず、その方はどんどん私の制服を脱がしていくのです」 彼女の懺悔の内容がとんでもないものだったからである。 わななくように唇が動き、彼女の綺麗な口からは出るなどとは想像もできないような、卑猥な単語がぽんぽんと飛び出す。 少しでも歩みを進めてしまえば触れることもできるであろう近距離で、そのような言葉の羅列を聞いている藤一郎としては身が持たない。 「ブレザーのボタンを外されて。リボンもあっさり解かれ、ブラウスも乱暴に破かれて。 プリーツスカートのすそをめくられ、太股まで露わにされて! 舌を絡めるような深い口付けをされ、胸を揉みしだかれ、ぐっしょりと濡れた胎内に男の人の熱を穿たれ、吐き出された精でおなかをいっぱいにされて、夢の中の私は悦びに喘いでいるのです!」 してはいけないと分かってはいても、野蛮な想像に翻弄される。 おそらく、この少女は男と寝たことなんぞ、1度も無いだろう。いや、口付けを交わしたことすら無いに違いない。 そんな穢れなき処女が、一体夢の中ではどれだけ淫らになるのだろう。 どんな声で啼き、どんな顔を見せ、どんな風に乱れ、悦楽を求めて男を強請るのだろうか。 「初めのうちは悪夢のようだったそれも、最近ではもうすっかり慣れっこになっていて、心のどこかではその夢を見ることを楽しみにしている自分がいるのです……」 ごくり、と生唾を飲み込んだ。 これは甘い誘惑か、試練か。 「それと同時に、夢から覚めたときの虚しさと身体の火照りをどうすれば良いのでしょうか……!」 この少女は、淫卑な夢に惑わされながらも、毎日何事もないように学校に通って来ているのだ。 誰が考えるだろうか―――彼女が、実は身体の疼きを抱えながら勉学に励んでいる、なんてこと。 「こんなふしだらな私をお許しくださいませ、マリア様……」 少女の懺悔は、きわどい言葉で藤一郎の理性を犯していく。もう、これ以上耐えられる自信がなかった。 ガタン。わざと乱暴な音を立てて、彼女と自分とを隔てていた重たい扉を開ける。 「!」 びっくりしたように少女の肩が跳ねる。 サラサラとした髪の毛が舞った。 「あ……」 驚いたようにこちらを振り返り、吐息混じりに吐き出された小さな声。それにすら欲情してしまう。 彼女が欲しい。手に入れたい。自分だけの物にしたい。流れ出す欲望は止まることがなく、それどころかどんどん欲深くなっていく。 熱い衝動に突き動かされるように引き寄せ、その柔らかい体躯を抱きしめる。細い腕と小さな手が揺れるのを目の端で他人事のように眺めながら、藤一郎は少女の首筋に顔を埋めた。 正夢の行く先 (この先18禁につき) 何かが壊れるような音がした。 BGM:「懺悔室」-フェロ☆メン |