これの続き!

さぁ」
「ん? なぁに、へーすけ」


最近、の様子がおかしい。
いつもなら、俺がお菓子を広げていると、そりゃあもう何処かにお菓子レーダーでもついているんじゃないだろうか、と思うような反応をしてすっ飛んでくるはずなのに、ここ数日は全く寄ってこない。
それどころか、呼んでも来ない。「いやちょっと、最近ダイエット中だから……」とか濁して去っていく。この間まで「ダイエットはやっぱり明日からにする!」とか言い訳しながら食べてたくせに、だ。
今日なんて、授業にも出ずに校舎裏の日向で俺と一緒にぼんやりしている。今まで「平介はなんでサボるの!?」とか怒っていた、真面目なさんはどこに行ったんですか。


「……えっと、マカロン食べる?」
「! 食べる食べる! ちょーだい!」


まぁ、あっくんみたいに目を輝かせて飛んでくる現在のは、いつも通りだけれど。
だとするならば、その異変の原因は俺ではなくて、鈴木であったり、佐藤であったりするのだろう。
もそもそと音もなくマカロンを食べる
ちなみに、食紅で薄桃色に染められたマカロンの間に挟まれているのは、あっくんと一緒に作ったイチゴジャムをふんだんに使ったストロベリークリームである。味は、おばさんのお墨付き。


「鈴木になんか言われた?」
「ふぇ、ふぁんへ?」


へ、なんで? と来たか。
というか、飲み込んでから返事してくれていいので、味わって食べてほしい。そのマカロンは、俺が一昨日から丹精込めて仕込んで、昨日じっくり冷蔵庫で冷やしておいたものなのだ。
それなのに、ストレス発散のように3つも4つもばくばく食べられると……悲しいじゃないか。


「佐藤と、喧嘩でもした?」


その口が、次の質問をしたところで止まった。
ごくん、と飲み込んでから、


「あー。いや、喧嘩ではないけど喧嘩みたいな……?」
「意味わかんねー」


4時間目の終わりのチャイムが鳴った。お昼休みだ。
そろそろ、授業の終わった生徒たちがぞろぞろやってくるだろう。その「生徒たち」の中にはもちろん、佐藤や鈴木たちも含まれている。


「あー、もう!」


誰にも言わないでね、と前置きして、


「……そーくんに告られた」
「へぇ〜」


小声でこそっと打ち明けるようにが呟いた。
ここしばらく佐藤も様子がおかしかったのは、このせいなのか。しかし、喜ばしい話題のはず割には、の声には歓喜の感情は交じっていない。


「嬉しくないの?」
「うーん……。私は別に、そういう関係は望んでないんだよ。そーくんとは、普通に友達でいたいんだよ」
「ふーん」
「だって、今まではちょっと手間のかかる幼馴染みだと思ってたんだよ? それなのに、彼氏だなんて。急にそんな目では見れないじゃん」
「まぁねー」


思うに、佐藤は結構長い間、のことが好きだったのではないだろうか。
ただの幼馴染みとして見ていたのはきっとだけ。佐藤の方は、ずっともやもやした気持ちを抱えていたんじゃないだろうか。
まぁ、ただの勘だけれど。


「ちょいとちょいと、へーすけくん。俺にはどうでもいいやー、みたいな態度隠せてませんけども」
「だってどうでもいいしー」


青春とか恋愛とか、そういうピンク色のオーラは、自分とは縁がない。興味もない。
でも。


「できれば、そーいう恋愛関係のいざこざは無しにしてほしいと思うわけですよ」
「えー、なんで?」


薄桃色のマカロンを持ったが、小首をかしげる。
先日、と一緒に遊んだあっくんは、作ってもらった折り紙のウサギを大事にしていた。すごく喜んでいたとおばちゃんからも言われた(家に飾っているらしい)。
確かに、俺が関わったこと以外であんなにも楽しそうに笑うあっくんは初めて見た。人見知りのするあっくんとすぐに仲良くなれるなんて、面倒見の良いらしいと思う。
佐藤は、のそんなところが好きなんだろう。


「俺の作ったものは、佐藤とか鈴木とかとか、みんなにおいしく食べてもらいたいし」


でも、その想いは報われないのだ。





ストロベリーマカロンのイデオロギー






だったら、恋愛はまだなしでいてくれると、ありがたい。




続きます。
続きました。