これの続き!

学校から帰ると、玄関までやって来た虎太郎に開口一番、「あきとあそびたい!」とせがまれた。
言う事を聞かないのはいつものことなので、仕方なく平介に電話すると、「いいよ。今あっくんと公園にいるー」というので、公園に向かう。
ぎゃーわーと騒ぐ小さな弟に振り回されながら向かった公園には、秋君と遊んでいる平介……と、鈴木との姿があった。


「えー!」


ベンチに座って折り紙でやっこさんを作ってあげているを、きらきらした表情で見上げている秋君。

「えー!」


そんな2人にすたすたと寄っていき「よっ」とか言い出す虎太郎。


「なにおってんだ?」
「やっこさん。こたろうもやろう」
「もちろんやるぜー! ねーちゃん、おれにもおってくれよ!」
「はいはい。相変わらず元気だねぇ、こたちゃん」


と虎太郎は仲がいい。
小さい頃はおしめも代えてくれたし、あんな生意気な虎太郎を突き放すことなく、辛抱強く付き合ってくれる。それに、虎太郎もの前では、通常よりいい子モードを発揮するのだ。これはありがたい。


「なんでだよー、俺も誘ってよー」


最初から、秋君たちと公園に行っていたら、虎太郎に連れまわされることもなかったのに!


「だって、佐藤誘ったら取り分が減るだろ」
「……と、まぁ。こう鈴木が言うもんでねー。誤解しないでほしいけど、俺は言いましたよ。ちゃんと『佐藤も誘おう』って」


取り分? 何の?
俺が疑問に思っていると、右手に秋君、左手に虎太郎の手を引いたが、とことことやって来た。


「あのね、平介がミルクレープ作ったんだってー」


しぶしぶと言った感じで、平介が手に抱えていた箱を出した。
中に入っていたケーキを見せてもらうと、そこには、綺麗に網目模様の入った黄金色のクレープが山になって入っていた。


「えっ、そんな理由で仲間外れにされたの!?」


確かに、ざっと見た感じ、ミルクレープは4等分にされてたけど……。そんな大きなケーキを4人占めするのはずるいと思うんですけれども。


「だって、ただのミルクレープじゃないんだもん! 中の生クリームに! なんと! リンゴとシナモンが挟み込まれているものなのだよ!」
「なんでお前が偉そうなんだ」


テンション高く語るに、作って来たのは平介だろうが、とつっこむ鈴木。


「いやー、私りんご好きなんだよ。なんか嬉しくって!」
「ん? あれ? 、りんご苦手じゃなかったっけ?」


その昔、りんご嫌いとべそかいていた記憶がある。
給食に出てきた冷凍りんごが食べられなくて、こっそり俺が貰ってやったこともあったはずだ。あのときのようにミルクレープも引き受けたいところだが、いつの間にかはりんご好きになっていたらしい。


「そーくん、いつの話してるのよー。それは小学生のころの話だよ。中学のときは普通にトーストにリンゴジャム乗っけて食べてたじゃない」
「そうだっけ?」



中学時代、俺は「きょうけん」と呼ばれていた。
自分から手を出したことはない。でも、ちょっと悪ぶったやつや不良によくからまれて、それを何とかするためにボコったりはしていた。
何人もの友達が離れて行った。遠巻きに、いやなものを見るように扱われたこともあった。
それでも、だけは変わらない態度で接してくれた。小さい頃から全く変わらないその優しさのおかげで、俺は今の居場所を見つけることができたんだと思う。


―――ほんの一回だけ、俺のせいでが危ない目に遭ったことがある。
俺のことを恨むやつが、を人質に取ろうとしたのだ。間一髪のところで事なきを得たが、あと少しでも遅かったと想像すると、今でもぞっとする。
でも、そんなことに巻き込まれてもは俺から離れて行かなかった。にこにこと、俺の面倒を見てくれた。
だから、俺の方から距離を置いた。これ以上が傍にいたら、いつか傷つけてしまうと思ったから。


「ミルクレープってさ、単純作業をずっと続けなきゃいけないじゃない。平介はお菓子のためならそういうこと出来る子なんだねー」


それまで、ずっと一緒にいた存在。離れて初めて気付いたのは、本当の気持ちだった。
幼馴染みとしてではなく、一人の女の子として見ていること。
これは感謝ではなく、恋慕だということ。
俺はなんてバカだったんだろう。どうして簡単なことに気付かなかったんだろう。


「っていうか、フランパン使わなくても、普通に電子レンジとラップとお皿使えば簡単にできるよ」
「えっ、それホント? それなら私でも簡単にできる!」


高校生になり、平介や鈴木たちとよくつるむようになって、きょうけんぶりもすっかり影を潜めたころ、俺は偶然を装ってに声をかけた。
避けられたらどうしよう、という俺の不安をよそに、も昔を懐かしんでくれ、交流は再開したのだ。


「しかも、そっちの方が失敗が少ないしね」


だけれど、と会うたびに、好きだという想いは募っていくばかりだ。
それは、まるで何度も何度も同じ工程を繰り返して作ったクレープを、何層も何層も重ねて作るミルクレープみたいに。


「冷蔵庫の中で30分くらい寝かせるのがコツなんだよねー」
「へぇー。なんで?」
「そうしないと、クリームと生地がよく馴染んでくれないから」





アップルシナモンミルクレープのプレローマ



好きという気持ちが、浸透していく。




続きます。
続きました。